この記事では、信越化学工業の経営がすごい理由を解説しています。
信越化学工業という企業をご存知でしょうか?
半導体のウエハや、塩化ビニール樹脂などを製造している会社です。
世界シェアが高い材料を多く作っております。
あまり馴染みが無い方も多いと思いますが、実は超すごい会社なんです。
なんと営業利益率が30%超で、売上も右肩上がりに成長しております。
この記事では、信越化学工業の経営がすごい背景を詳しく分析していきます。
信越化学に興味がある方に役立つ情報をお届けします。
信越化学工業の経営がすごい!営業利益率30%超の秘密を徹底解説!
信越化学がすごい理由を4つ挙げました。
・フル生産フル販売戦略
・顧客に価格を転嫁できる地位の確立
・少数精鋭
・鉄壁の財務と的確な設備投資
日本には優良な製造企業はいくつもありますが、上記4つの条件を満たすパーフェクト企業はほとんどありません。
以降では、信越の強さの秘密を詳しく解説していきます。
フル生産フル販売戦略
信越化学の主力事業である「塩ビ樹脂」は、材料としては特殊なものではありません。
更に、信越化学が塩ビ樹脂に参入したのは遅く、当初は事業優位性は全くありませんでした。
後発メーカーであった信越化学は、参入当初から「海外」を中心にビジネスを展開する方針を立て、1974年にアメリカで塩ビ事業に参入しました。
当時は、米国内の塩ビメーカー21社中13位の規模でした。
中堅メーカーであった信越化学は「フル生産、全量販売」という方針を立てました。
要は、安く良いものを大量に作り、それを売り切るという戦略です。
これだけ聞くと、当たり前の戦略に聞こえますが、実践するのは非常に大変です。
そもそも塩ビ樹脂は、設備産業です。
生産能力を上げるには、大規模な設備投資が必要となります。
その一方で塩ビ樹脂は、需要の波が激しいです。
景気が悪くなると、需要が大きく減少します。
需要の波が激しい商材は、景気が悪くなると「供給過剰」に陥り経営が悪化しやすいです。
特に塩ビは標準的な原料なので、価格の叩き売りになりやすいです。
つまり「フル生産、全量販売」という方針は、言うは易く行うは難しなんです。
ですが、信越化学は塩ビ樹脂で「フル生産・全量販売」をやり切ります。
具体的には、納期遵守・安い価格の塩ビ樹脂を市場に送り出す事で、競争優位性を保ちました。
その結果、信越化学は後発組にも関わらず、世界シェア1位という地位を築きました。
フル生産・全量販売を成し遂げるには、良いものを安くタイムリーに作る製造力と、作ったモノを売り切る営業力が必要です。
信越化学は、その両方を持ち合わせていたことが成功の秘訣と言えるのです。
またもう一つの柱である「半導体ウエハ」でも、フル生産・全量販売を徹底しています。
半導体は、シリコンサイクルと呼ばれる「4年ほどの短い需給サイクル」が存在します。
そのため「忙しい時と、暇な時の落差が激しい」のが特徴です。
(多くの半導体企業が、設備投資後に不況が来て経営が苦しくなりがち)
信越科学は、リーマンショックの需要の急減を反省し、顧客の長期需要を徹底的に確認する方針を立てています。
具体的には、顧客とLTA(長期契約価格)を結ぶ事で、LTAで合意した需要に対してのみ設備投資をしています。
このように需要をきちんと見極め、常にフル生産・全量販売を実践することで、効率的な経営が可能になるのです。
顧客に価格を転嫁できる地位の確立
信越化学の2つ目の強みは、顧客に価格を転嫁出来る地位です。
信越科学は、圧倒的な市場シェアを背景に、業界のリーダーとして積極的な値上げを進めています。
半導体ウエハ事業は、プロセスの微細化に伴いウエハに求められる品質が年々高くなっています。
こうした高い品質に対応できるのは、信越化学など特定の企業に限られています。
・高い技術力
・世界No1のシェア
・売り手有利の需要過多の市況
信越化学はこの3つの力を背景に、原材料の高騰や設備投資費用を売価に反映しています。
価格については、長期契約(LTA)価格がある製品でも、ブラウンフィールド投資での追加分は、価格が上昇します。また、エネルギー、原材料、輸送コスト等上昇については、お客様と価格修正を相談しています。
【出典】信越化学工業_決算説明資料_今期のウエハーの数量と価格見通しについて
また塩ビ樹脂は、汎用材料です。
そのため他社が設備投資を行えば、供給過多になり過当競争が起こる可能性があります。
しかし現時点では、そうした他社の設備増強の動きは見られておりません。
米国において環境規制は厳しくなっています。全く新しい敷地に工場を立てるのはかなり難しい。そうすると既存の工場での新増設となりますが、そこで川上から川下まで一式揃えるとなると相当な投資になります。
【出典】信越化学工業_決算説明資料_米国塩ビ業界で増設投資があまり出て来ない背景について
今後、信越化学に挑戦する塩ビメーカーが大幅投資に踏み切らない限り、今の需要過多の状況はあまり変わらないものと予想されます。
そして現在は、旺盛な需要に加えて、自然災害などによる供給側の制約により、供給が足りない状況が続いています。
こうした需要過多の状況を背景に、信越化学は2021年に合計3回も「塩ビの値上げ」に踏み切っています。
信越化学工業は26日、塩化ビニル樹脂(塩ビ)について、11月21日納入分から国内向け販売価格を値上げすると発表した。改定幅は「40円/kg以上」。
(中略)
こうした状況を踏まえ、同社は、今年3度目となる国内向け販売価格の値上げを決定した。
【出典】日刊ケミカルニュース_信越化学工業 塩化ビニル樹脂を値上げ、今年3度目の実施
このように適切に売価を値上げ出来る力があることが、信越化学の高利益体質の源泉と言えます。
少数精鋭
今回信越化学の決算資料をみていて、従業員の数が少ない事にびっくりしました。
2022年3月時点で、本体従業員が3,341人、連結でも24,954人となっています。
これは、同じ規模の会社と比べて、かなり人数が少ないです。
売上高2兆円規模の製造業で比較してみました。
他の企業と比べても、人員がかなり少ない事が良く分かります。
製造業はモノづくりを行う企業です。そのため、工場での人員含めて従業員は多くなります。
ですが、従業員が多いということは、それだけ原価を圧迫します。
少ない人員で売上2兆円を達成するためには、従業員の生産性が高い事が必要です。
経営者へのインタビューでも少数精鋭を意識していた事が語られています。
決して赤字を出さない、かつ従業員のレイオフ(一時解雇)をしないという使命感が当初からありました。そこで、製造部門をはじめとして人員は極力少なく、また、本社組織は最小に、というやり方が取られました。結果、一人ひとりが幅広く仕事を担当するようになりました。
【出典】日興フロッギー_驚きの利益を生む組織は、いかにして生まれたか【後編】
こうした少数精鋭を実現するために、従業員は生産性の高い仕事に注力しなければなりません。
信越化学では、少数精鋭を実現するため「無駄な仕事を徹底的に省く文化」が徹底されています。
本質的でない仕事は徹底的に省きます。(中略)
中期経営計画を作ることに相当な時間をかけていました。しかし、完成して発表した後は、ファイルに閉じてしまっておくだけ。なんのためにやっているのかなあと思っていたのですが、1990年に社長になった金川千尋(現会長)が、その仕事をなくしました。中期経営計画の公表をやめたのです。
何年までに何%売り上げを伸ばすとか、どの分野にいくら投資をするとか、細かく計画を立ててもその通りに進むことはまずありません。その度ごとに理由を説明して、数字を修正するのは、大変な労力を要します。
【出典】日興フロッギー_超・高収益企業のトップが初めてメディアに語った「強さ」の秘訣【前編】
日本の会社には、生産性に直結しない「虚業」が山のようにあります。
その結果、日本の生産性は外国と比べて著しく低い事が明らかになっています。
このように虚業を廃し、少数精鋭で生産性の高い仕事をする企業風土が、超高利益体質を生み出したのです。
鉄壁の財務と的確な設備投資
信越化学の凄さの最後が「鉄壁な財務と的確な設備投資」です。
信越化学工業は、自己資本比率が80%という鉄壁の財務を誇っています。
有利子負債もゼロで、理想的な経営状況です。
しかし設備産業である信越化学は、売上を増やすためには大規模な設備投資が必要不可欠です。
いくら利益率が高いと言っても、不適切なタイミングで設備投資をすると減価償却が重くのしかかります。
固定費の回収のために安売りを行い、利益が減るという負の循環が起きます。
その点、信越化学は設備投資のタイミングが非常にうまい事で有名です。
当社がメディアで紹介される際、「投資判断が絶妙である」とよく言われます。会長の金川が行った、米国塩ビ会社シンテックでの一連の投資、光ファイバーの素材となる合成石英プリフォームや、現在半導体業界の主流となっている300ミリの半導体ウエハーの設備投資を指しているのだと思います。確かに、金川が市場のニーズを察知して他社より早く投資の手を打ったことで、当社は大きく成長しました。
【出典】日興フロッギー_超・高収益企業のトップが初めてメディアに語った「強さ」の秘訣【前編】
的確な投資が更に利益を生み、利益が経営を安定させるので、市況が活性化する前に次の積極的な一手が打てるようになります。
まさに、設備投資が更なる利益を生む好循環となっています。
実際、信越化学のフリーキャッシュフロー(営業活動で得たお金から設備投資費用を差し引いた額)は、毎年プラスです。
このように、鉄壁の財務と的確な投資、この両輪が信越化学の強さの源泉なんです。
まとめ:信越化学工業の経営がすごい理由!
信越化学がすごい理由まとめです。
・フル生産フル販売戦略
・顧客に価格を転嫁できる地位の確立
・少数精鋭
・鉄壁の財務と的確な設備投資
如何だったでしょうか。
今回は、信越化学の経営がすごい理由を分析してみました!
日本の製造業にもこういう超優良企業があるので、まだ見捨てたもんじゃないなと思います。
信越化学の良い文化がもっと日本の製造業に広まれば良いな、と感じました。
最後まで読んでくれてありがとうございました!
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