日本の半導体メーカーが没落した一番の理由は、水平分業という時代の流れに乗れなかったからです。
こんにちは、コロスケです。
今日は、日本の半導体メーカーの変遷についてまとめていきます。
僕が資材業務を始めた2008年は既に日本の半導体メーカーの力は衰えてきていました。
そしてその流れは今も続いています。ルネサスの経営問題など、かつて隆盛を誇った日の丸の半導体は完全に没落してしまいした。
最近資材業務を始めた人は、日本の半導体の隆盛を知らない人も多いと思います。
今日は資材歴10年の現役資材部員で、ずっと半導体業界の状況を見てきた僕が日本の半導体メーカーの変遷についてまとめていきたいと思います。
日本の半導体メーカーは何故没落したのかという疑問を解決していきます。
日本の半導体メーカーが没落した理由【水平分業・ファブレス】
最初に書いた通り、日本の半導体メーカーが没落した一番の理由は「半導体の水平分業という大きな流れに乗れなかった」からです。
一時期は日本の代表的な産業だった半導体が何故没落してしまったのかを詳しく解説していきます。
半導体の調達担当は是非知っておきたい知識だね
昔の日本の半導体メーカーは凄かった
僕が生まれた頃の1980年代は、日本の半導体の黄金期でした。
Japan As No.1!!!
と言われたのもこの時期です。
当時の日本の半導体メーカーがどれだけすごかったのかを表す資料があります。
1987年の半導体メーカー売上高世界ランキング
1位:NEC(日本)
2位:東芝(日本)
3位:日立(日本)
4位:モトローラ(アメリカ)
5位:TI(アメリカ)
6位:富士通(日本)
7位: フィリップス(オランダ)
8位:NS(アメリカ)
9位:三菱電機(日本)
10位:インテル(アメリカ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%8A%E5%B0%8E%E4%BD%93%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E5%A3%B2%E4%B8%8A%E9%AB%98%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0#1987%E5%B9%B4%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0
世界の半導体市場のトップ3を日本勢が独占。トップ10の内、半分の5社が日本勢という圧倒的な状況です。
そして驚くべきことはあのインテルが10位ということです。
それくらい当時の日本の半導体メーカーは市場を席捲していました。そして残念ながら2017年では東芝メモリのみになっています。
更に残念なことに、東芝メモリも完全な日本資本では無くなってしまったので、日本の半導体はトップ10から姿を消すことになりました。
昔はすごかったのに、今は完全に没落してしまったんだね・・・
水平分業型と垂直統合型とは何か?
日本の半導体が没落した原因である、分業の仕組みをご説明します。半導体メーカーにおける垂直分業と水平分業の意味は以下の通りです。
垂直統合:1つの半導体メーカーが「設計」「製造」「検査」全てを行うこと
水平分業:「設計」「製造」「検査」工程を複数のメーカーで分業すること
日本も含めて1980年代の半導体メーカーの製造形態は、垂直統合型という形態が主流でした。
垂直統合型のモノ作りは、一つの企業が全ての工程を担うことです。
しかし、その後半導体業界ではモノ作りを複数の企業で分業する体制が主流になりました。
<水平分業の例>
設計:INTEL(アメリカ)
製造:TSMC(台湾)、 アムコア(アメリカ)
でも、どうして半導体は水平分業が主流になったの?
それは、最新設備になるほど製造設備の投資額が巨額になるからです。
半導体メーカーはライバルメーカーとの競争に勝つためには設備への継続的な投資が必要不可欠です(半導体は設備産業で、設備の能力が競争力の源泉)。
しかし現在は、最新のプロセスの設備を導入するためには兆単位の費用がかかります。それを1つの企業が自社のためだけに投資するのは、非常にハイリスクです。
そこで巨額の費用が掛かる「製造工程」をアウトソースする動きが進みました。(製造工程を持たないメーカーをファブレスメーカーと言います)
全ての企業が兆単位の投資をするのでは無く、製造の専業メーカーのみが設備投資をすれば、設計するメーカーは巨額の投資から解放されるので、効率的な事業運営が出来ます。
そして製造メーカーも複数の企業を顧客に持つことで、ビジネスを大きくすることが出来ます。
巨額の設備投資競争という背景から、半導体業界では水平分業という仕組みが定着しました。
半導体メーカーにファブレスが多いのは設備投資費用が高いからなんだね
日本の半導体メーカーが水平分業に移行できなかった理由
でも日本のメーカーはどうして業界の流れである水平分業を採用できなかったの?
一番の理由は「既に製造工程を持っていた」からです。
投資効率が良いからと言って、競争力の源泉である製造工程を、自社のコントロール外にある他社へ委託するのがベストな選択であることを、当時の経営者は見通せなかったのだと思います。
もし経営者がそのことを見通せたとしても、工場をつぶしてファブレスに移行するのは不可能だったと思います。
その理由が、「雇用の確保」です。
日本の会社は不採算事業があっても簡単にリストラすることは出来ません。もし、工場を閉鎖するとなれば、地元の自治体との調整や組合との調整など、現実的には実現が不可能だったと思います。
既に確立した業態を大きく変えるのはとても大変なんだね・・・
ルネサスの混迷にみる日本の半導体メーカーの没落
1980年代に世界のシェアトップ10のメーカーであるNEC・日立・三菱が合併してできたのが、ルネサスエレクトロニクスです。(以下の通り最初は日立と三菱が合併、その後NECが合流)
2003年4月に日立製作所と三菱電機の半導体部門(電力制御用半導体を除く)を分社・統合して設立。
2010年4月にルネサス テクノロジはNECエレクトロニクスを存続会社として合併
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%82%B5%E3%82%B9%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%82%B9
2000年代の3社は1980年代の勢いは無く、過当競争と巨額の設備投資に苦しんでいました。
そこで、世界のメーカーと戦える力をつけるべく合併しました。そこでは1+1+1を3以上にすべく合併したのですが、結果は1+1+1を3にすることも出来ませんでした。
どうして3社の合併はうまくいかなかったの?
上手くいかなかった原因は以下の2つです。
・3社の工場を統廃合せず温存したこと
・水平分業に舵を切れなかったこと
3社が一緒になることで、生産性を高める必要があったのですが、実際は3社が一緒になっただけで、工場の統廃合は全く進みませんでした。
さすがに当時の経営者は工場を温存することの非生産性は認識していたはずですが、恐らく色々なしがらみで、工場の再編を決断出来なかったのだと思います。
そして合併して効率化するというのは、垂直統合の範囲内での効率化でした。
競争力を維持するためには、巨額の設備投資が必要な工場を手放す必要があったのに、ビジネスの業態を大きく変えることが出来なかったのが、没落の原因でした。
そして、結局は2010年代の経営危機を受けてようやく、工場の統廃合を行いました。
これは倒産しないための受け身の変革だったので、ルネサスの飛躍になるような改革ではありませんでした。( 最近は先端プロセスは外部へ委託しておりますが、その動きもとても中途半端です)
そして現在のルネサスは昔の総合半導体メーカーの面影はなく、マイコンメーカーになってしまいました。(1+1+1が1未満になってしまいました)
昔の半導体業界を知っている人が現状を聞くと悲しくなってくるね・・・
まとめ
現在の半導体業界は水平分業が主流です。
垂直統合の形態をとっている限り、日本メーカーが再び世界の覇権を握るのは不可能です。
ただ今更ファブレスに移行しても遅すぎるので、日本のメーカーは新たな製造技術を確立するなど、イノベーションを起こさないと生き残れないと思います。
ムーアの法則*の限界が近づいているのでは?と言われる現在、日本勢が新たな製造技術を創り上げることが出来るのかが日本復興のカギだと思います。
ムーアの法則
半導体の集積密度は18~24カ月で倍増し、チップは処理能力が倍になってもさらに小型化が進むという法則
https://kotobank.jp/word/%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87-9174
僕は個人的に半導体の調達を長く担当してきたことから、日本の半導体メーカーには頑張ってほしいと思っていますが、10年後の半導体業界はどうなるのでしょうか。
この記事で日本の半導体業界のことに詳しくなってもらえればうれしいです。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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