こんにちは、コロスケ( Corosuke blog)です。
今日は最近のバイヤーを取り巻く環境について解説していきます。
購買部員の価格交渉のルールが変わりました
これまでの民間企業の価格交渉のあり方が、ルール変更によって大きく変わりました。
僕は10年以上資材調達業務をしてきましたが、今までのやり方は通用しなくなりました。
経験があるバイヤーは、考え方のアップデートが必要です。
そこで今回は、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」「価格転嫁パッケージ」について詳しく解説していきます。
バイヤーの価格交渉のやり方が根本から変わりました【官製値上げの時代】
これまで民間企業の価格交渉は「対等な企業同士が自由に契約するもの」とされてきました。
しかし公正取引委員会が新たな取引ルールを通達したことで、その前提が大きく崩れました。
労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針
2023年11月に「内閣官房・公正取引委員会」が、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を出しています。
そこで発注者(資材部員)に求められる事として5つの取るべき行動が書かれています。
・①労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定すること、②経営トップが同方針又はその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと、③その後の取組状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップが更なる対応方針を示すこと。
・受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。特に長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されているような取引においては転嫁について協議が必要であることに留意が必要である。
・労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠があるものとして尊重すること。
・労務費をはじめとする価格転嫁に係る交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること
・受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと。
長すぎて読む気がしないよ…
長いですが、バイヤーのポイントは以下2つです。
・発注者側から価格協議の場を設ける
・労務費・エネルギーコストの値上げ申請は基本的に認める(値上げする)
従来、値上げ申請は「値上げしたい側=受注者側」が行うものでした。
しかし今回の通知により、バイヤーが「〇〇会社さん、価格改定はありませんか?」とわざわざ聞く必要が出てきました。
また価格は、本質的に「マーケット」が決めます。
そのため競争が激しい業界には相場価格があり、売り手はその価格に合わさざるを得ませんでした。
しかし今回の通知で、労務費起因の値上げ申請をすれば、基本的には買い手は受け入れる必要が出てきました。
※注:この通知は下請取引先に限らず、下請に該当しない通常の取引先にも適用されます
対等な企業同士の自由契約・自由競争が制限される
民間企業の価格交渉は、対等な企業同士が決めるものでした。
いわゆる自由競争の世界です。
ですが、この通知によって、自由な競争は一定の範囲で制限されることになります。
わざわざバイヤーが「値上げの確認」を行い、労務費関係の妥当な値上げ申請があれば受け入れる必要があるからです。
個人的にこの通達に納得がいかないのは、法律に基づかない要請だからです。
この通達の根拠は、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に求められています。
(2)独占禁止法の適用の明確化【公正取引委員会】
下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号。以下「下請代金法」という。)の適用対象とならない取引(※)についても、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和 22 年法律第 54 号。以下「独占禁止法」という。)の「優越的地位の濫用」に該当するおそれがあることを公正取引委員会は明確化し、周知徹底する。
【出典】パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ
優越的地位の濫用には「優越的地位」と「正常な商習慣に照らして不当」と「濫用行為」の3つに当てはまる時に適用されます。
「労務費の値上げを一方的に認めない」のは、優越的地位の濫用に当てはまる可能性はあるかもしれません。
しかし「発注者側が値上げが無いかを確認する行為」は、上記3つの条件のいずれにも明確には該当しません。
なので個人的には「公正取引委員会」こそ、優越的地位を濫用している気がしております。
(ルールを変えたければ、法律を変えるべき)
時代に合わせて考え方をアップデートしないといけない
ここまで個人的な考えを説明しました。
しかし日本で働いている以上、日本の行政が指示するルールは守らなければなりません。
今回の通達によってやるべきことをまとめました。
・年に1度は発注者側から協議を持ちかける
・労務費、エネルギーコスト系の値上げ申請は、妥当な範囲であれば認める
・きちんと通知を遵守しているエビデンスを残す(身を守る)
「年1回」というのは、通知の内容に準拠しています。
受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。
【出典】労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針
今まで値上げ価格を抑えるのが資材の仕事でしたが、基本こうした値上げ申請は(妥当な範囲内であれば)全て認める事になります。
妥当な範囲がどこまでなのかは難しいですが、労務費は取引先の通知額をベースに話を聞くしかなさそうです。
最後に、通知を守っている事を示す履歴は残しておいた方が無難です。
公正取引委員会は、価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名の公表を行っております。
そこでは、自社の言い分は全く聞かれず、売り手だけの意見が反映されます。
いきなり公正取引委員会から刺されないように、履歴を残しておく方が無難です。
やりにくい時代になりました…。
コストを下げるより売値を上げる時代(官製値上げ)
これまでの製造業は「製造コスト」をできるだけ抑える事に注力してきました。
しかし今回の通知で、そうした動きは制限されました。
企業努力としては、むしろ自社商品をどんどん値上げしていく方向に舵を切るべきです。
僕が製造業の経営者/営業責任者なら、今のタイミングで間違いなく全製品の値上げ申請します。
— コロスケ@現役資材部員 (@Corosukeblog) January 14, 2024
公正取引委員会が下請けの有無に関係なく「労務費の値上げは認めろ」と言っているので、妥当な範囲内ならバイヤーも認めざるを得ない状況です。この波に乗らないと、永遠に値上げできないと思います。
時代の波に逆らって値上げを抑えるのではなく、自社の商品の値段を上げる事に注力すべきです。
まとめ:バイヤーは考え方のアップデートが必要
バイヤーは今までのやり方をしていると、ある時公正取引委員会から指摘を受ける可能性があります。
「値上げ申請はできるだけ抑える!」という考えではなく、「労務費・エネルギーコストの値上げは妥当な範囲で認める」という考えを持つことが大切です。
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