こんにちは、コロスケです。
今日は資材部におけるBCP(Business Continuity Plan)についてまとめていきます。
僕は10年間製造業の資材部門で働いていますが、僕が最初働き始めた頃はBCPは一般的な概念ではありませんでした。しかし、現在は製造業にとってBCPは必須概念となっています。
今回は、資材歴10年の経験を元に「資材部におけるBCPとは何か?」について解説していきます。
資材部歴の浅い人や、資材部への入社・転職を考えている人の、BCPに関する疑問を解決してきます。
資材部・購買部におけるBCP対策について解説
そもそもBCPって何?知らなきゃまずいの?
BCPとは Business Continuity Planの略で、日本語にすると「事業継続計画」を意味します。
そして、資材部門にとってのBCPとは「調達品の生産継続性を確保する取り組み」のことを言います。
資材部にとって、モノを確保することは一番大事な仕事ですので、BCPは非常に重要です。
これだけじゃイメージが湧かないから、詳しく解説してほしいな
以下の項目で、資材部門におけるBCPを詳しく解説していきます。
BCPの歴史(2011年が始まり)
そもそもBCPという概念はいつ生まれたのでしょうか。
僕が入社した2008年の時にはBCPという概念は一般的ではありませんでした。BCPという概念が世間で広まったのは、2011年に起きた2つの大きな災害が原因でした。
・東日本大震災
・タイの洪水
東日本大震災
2011年に発生した東日本大震災は、日本のサプライチェーンをズタズタに分断しました。取引先の工場の稼働停止、物流の寸断などにより調達品が納入されない事態となりました。
資材部員は当時どういう苦労があったの?
当時は混乱の極みにあり、情報が錯綜していました。そんな中でも社内のモノ作りを継続するためには調達品の納入が必須です。調達品の確保をする中で色々な苦労がありました。
・調達品の製造場所はどこなのかを一から調べる
・調達品の工場が問題無くても、その先の二次外注先・原料メーカの被害確認が必要
・被害に合われた取引先に対しても納期確認しなければいけなかったこと
当時多くの会社が、調達品の工場がどこにあるかを把握出来ておりませんでした。そのため、全ての調達品の製造場所を一から調べ、影響有無を確認することからスタートしました。
資材部員であれば良く分かると思いますが、全ての調達品の製造場所を確認するのは困難です。それでも調達品が問題無く供給されるのかを確認するためには、製造場所の調査が必須でしたので、取引先の方の協力を得ながら調査を行いました。
次に問題になったのが、二次外注先・原料メーカーの製造場所です。
仮に取引先の工場が影響が無かった場合でも、その先の部材で影響が出てモノ作りが出来ないことが多々発生しました。
二次外注先・原料メーカーというサプライチェーンの上流にさかのぼって製造場所を把握するのは、調査対象が非常に多くなり、現実的に不可能に近いことでした。
ただ結局これも確認をしない限り本当に、僕たちの調達品に影響が無いかの判断ができないため、時間はかかりましたが、確認を行いました。(取引先の方に自身の調達品の影響を確認して頂き、影響があれば報告頂いたケースがほとんどだと思います)
最後に一番つらかったことが、被害に合われた取引先の方に納期フォローをしなければいけなかったことです。
取引先の方にとっては、ご自身の生活も影響が出ており納期なんて二の次の状態でした。にも関わらず、「いつ納入されるのか」を確認しなければならないことは資材部員にとってとてもつらいことでした。
災害が起きると資材部門もそうだけど取引先の方も大変だよね・・・
タイの洪水
そしてBCPの重要性を決定づけたのが、同年に起きたタイの洪水でした。
日本の製造業の多くはタイに進出しており、タイでモノ作りを行っていましたがタイの洪水で日本企業が多く進出していた工業団地も洪水の被害を受けました。
この時も、調達品のサプライチェーンを遡り、全ての調達品で洪水の影響を調査することになりました。
この二つの災害がBCPという考え方を定着させたんだね・・・
資材部でのBCPの取り組み
・調達品の生産場所調査
・マルチサプライヤー(複数社認定)
・マルチファブ(複数工場認定)
・戦略的在庫保有
資材部でのBCPとは、調達品の供給が滞らないように事前に対策を打つことです。
取引先のA社で何かトラブルが発生し供給が滞った場合に備えて、事前に上記対策を進めていきます。
供給が滞るトラブルって具体的にどういうケースがあるの?
・地震・火事・洪水などの天災による工場の稼働停止
・大雨・大雪などで物流が止まることでの出荷停止
・設備故障・点検による工場の稼働停止
・取引先の突然の倒産による生産停止 など
これらの事態に備えて、資材部門は4つの取り組みを行っております。具体的に一つずつ解説していきます。
調達品の生産場所調査
災害があった時に一番苦労する点が、「調達品の生産場所」を知ることです。災害が起きてから調べては遅いので、東日本大震災・タイの洪水以降、各製造メーカーは調達品の生産場所調査を進めております。
調査は二次外注先までさかのぼった方が良いの?
可能であれば、主要な調達品については知っておいた方が後々便利です。しかし、二次外注先の情報は場合によっては取引先が開示しない場合もありますので、注意しましょう。
また、全ての部材でサプライチェーンを遡ることは不可能ですので、基本的には出来る範囲での調査となります。
マルチサプライヤー(複数社認定)
規格品など、同じモノを複数の会社が製造している場合は、複数の製造会社を認定することがBCP対策として重要です。
仮にA社のネジしか社内の製造で使えない=認定されていない場合、A社に何かあった時、供給が停止しますが、B社を認定していた場合は、B社へ手配を切り替えることで、生産継続性を確保できます。
このように資材部門は設計部門と連携し、マルチサプライヤー(複数社認定)を進めることで、BCP体制を構築していきます。
複数社認定は、競合構築にも役立つし、是非進めていきたいね
マルチファブ(複数工場認定)
取引先が同じ部材を複数の工場で製造している場合、1つの工場だけでなく、複数の工場を認定することで、1つの工場の生産が停止しても他の工場から供給が可能となります。
複数の工場で同じものを作っているメーカーを採用することで、BCP対策となります。
新規に採用する場合は、複数の工場で同じものを作っているとBCP的には安心だね
戦略的在庫保有
カスタム品など、一つの工場でしか製造が出来ない場合は、マルチサプライヤーやマルチファブの対策が取れません。そこで考えられたのが戦略的な在庫保有です。
戦略的在庫保有って何??普通の在庫と何が違うの?
戦略的在庫は、工場に何かトラブルがあって生産が停止した場合、復旧までにかかる期間を想定して、その分の在庫を保有することです。
具体的にある工場が地震で生産が止まった場合、復旧まで3ヶ月かかると見込まれるケースでは、3ヶ月+αの在庫を保有するようにします。
この戦略的在庫によって、従来の「在庫は出来る限り少ない方が良い」という考え方が一部修正されることになりました。
何かあった時に困らないように、代替がきかない部材は戦略的に在庫を持つことも大事だね
BCPの大変なところ
調達品におけるBCPの基本は「マルチサプライヤーとマルチファブです」。(戦略的在庫は最後の手段)
そのため、製造メーカーは調達品のマルチサプライヤー/ファブを推進するのですが、なかなか全ての調達品で上記対策を取ることは難しいです。その理由が以下です。
・部材の認定に、手間と期間とお金がかかる(評価が必要)
・BCP対策をしても原価低減にならないことも多い
マルチファブ・サプライヤー認定するためには、調達部材を追加で認定する必要がありますが、部材の認定に「手間と期間とお金」がかかるのが一番の難点です。(社内の製造で使えるモノかどうかの確認・評価を行います)
そして、苦労して認定してもあくまでバックアップであることから、原価低減などの分かりやすい成果が出づらいのも難点です。(せっかく頑張ったのに成果が無いのはさみしいですよね)
特に認定評価を進めるのは、社内の設計部門や品質管理部門です。忙しい彼らがはっきりした成果が無いBCP向けの評価に時間と手間をさいてくれるように資材部門が働きかけていく必要があります。
BCP対策では、いつあるか分からない災害のために努力することが求められているのです。
備えあれば憂いなしだね。平時の今から対策をしていきたいね
最後に
資材部門にとってBCPは切っても切り離せない関係です。資材部門で働く人は、調達品の製造場所やBCP対策が取られているかをきちんと確認していく必要があります。
一方でBCP対策を通じて得られる知識(他社で同じものを作っているか、製造場所はどこか)は、資材部員としての付加価値を高めることになります。
面倒くさいなと思わずに、BCPを意識しながら業務をしていくことをオススメします。(将来万が一があった時にきっと役に立ちます)
またBCP以外の資材部の役割について知りたい方は以下の記事をご覧ください。
この記事を通じて資材の仕事をより深く知ってもらえると、とてもうれしいです。
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