こんにちは、コロスケ( Corosuke blog)です。
この記事では、円安で調達品の値上げ要請を受けた時の対処法を解説していきます。
最近、為替が急速に円安に進んでいます。
たった数ヶ月で15円も円安に動いています。
円安が進んだ事で、取引先からの値上げ要請が増えていると思います。
ただでさえ忙しいのに、値上げ要請が増えてきたよ・・・
円安対応で苦労しているバイヤーの方も多いと思います。
実際、ツイッターでこんな質問を頂きました。
調達部員です!いつも参考にさせて頂いております🙇♀️
— りか (@ryuaqyu1) May 10, 2022
納期遅延も値上げも本当に勘弁してくれーって感じですね😂
最近海外製品を担当するようになったのですが、円安の影響をモロに受けています😢
為替変動による値上げはどうやって対応していけば良いのでしょうか・・・
ツイッターでは文字数の関係でざっくりとした回答しか出来ませんでした。
そこで本記事では「円安理由による値上げ対応方法」を詳しく解説していきます。
輸入品を調達している方に役立つ情報をお届けます。
【為替】円安による値上げ要請にバイヤーはどう対抗すれば良いの?
円安が理由の値上げ要請への対応方法は、以下のとおりです。
・為替値上げは、基本的には受けるしかない
・円高に振れた時に値戻しできる「為替リンク」を導入するのがおすすめ
以降では、値上げ要請時の具体的対応方法や、為替リンク制度について解説していきます。
円安時の値上げは基本的には避けられない
部材を輸入している取引先は、現地通貨で部材を仕入れて、日本円で販売しています。
そして現地通貨を日本円に換えるタイミングで、為替が発生します。
為替が円安に進むと、取引先では差損が発生します。
例えば1ドル=100円の時に、1ドルの部材を仕入れて客先に110円で販売しているケースで考えます。
この場合は1ドル=100円で仕入れて110円で販売しているので、10円の利益が出ます。
その後、為替が1ドル120円になったと仮定します。
この場合は、1ドル=120円で仕入れて110円で販売しているので、10円の損になります。
取引先は為替変動に対応できるように、10%程度の為替変動を織り込んで価格を作っています。
ですが、それを超えて円安に動くと利益が確保できなくなります。
このように10%以上為替が円安に動くと、取引先からは値上げ要請を受けるケースが出てきます。
そしてこの円安による差損は、取引先の自助努力ではどうしようもありません。
取引先も慈善事業ではないので、基本的には円安に動いたら値上げ要請をしてきます。
特に2022年の円安はあまりにも急で、かつ15円ほど円安に動いています。
そのため大半の取引先は、円安による為替差損が発生しているはずです。
円安理由による値上げ時の価格査定方法
円安を理由にした値上げ要請では、以下の流れで交渉していきます。
・値上げ部材を採用した当初の為替を確認する
・取引先はその時の為替に一定のバッファをつけているので、取引先の設定為替を想定
・こちらが査定した為替と、今の為替を比較。値上げが妥当かを確認する
まず当時の為替相場を調べます。
そしてバッファを上乗せした「取引先の設定設定為替レート」を予想します。
例えば当時1ドル=100円だった場合、取引先は恐らく「110円~115円程度」で円貨の見積もりを算出しているはずです。
(バッファが無いと、すぐに赤字になってしまうため)
このように試算した設定為替と今の為替を比較して、値上げ及び値上げ幅が妥当かを試算します。
値上げが妥当であれば、基本的に受けるのが望ましいです。
なぜなら査定が妥当であれば、取引先は為替差損でかなり厳しい状況だからです。
取引先に利益が出ない事業は長続きしません。
一時、難癖をつけて値上げを渋る事に成功しても、その後何らか別の形でしっぺ返しを喰らいます。
(例えば、生産中止されたり、納期が後回しにされるリスクが出てきます)
一方でこちらの査定の結果、値上げ幅が妥当で無い事がわかれば、こちらの査定をぶつけて交渉します。
先方の設定為替レートはあくまで予想のため、必ず先方との意見に食い違いが生じます。
あとは交渉の流れ次第ですが、両社納得できるレートの値上げ幅に落とし込んでいきましょう。
また値上げ幅を抑制する方法として「円安の時だけ言うなよ戦術」があります。
そもそも円貨で値決めしている部材は、その為替リスクを取引先が負っています。
円高の時は為替差益を得ているのに、円安の時だけ値上げ申請をするのはフェアでは無いと主張します。
この戦術は、円高だった時期の取引先の為替差益を拠り所に、一時的な円安はそちらで吸収すべきと主張するものです。
但し、130円レベルの為替になると、さすがにその戦術だけで逃げ切るのは難しいですが。。。
為替リンクによる値決めとは?
為替リンクによる値決めという方法があります。(外貨リンクやドルリンクとも呼びます)
輸入品の価格を円貨では無く、外貨で決める値付け方法です。
例えば1ドルの部材であれば、取引先とは「この部材は1ドル」と予め決めておきます。
その上で、その時々の為替レートに応じて円転します。
個人的には、値上げ要請された段階で「為替リンク制度」にするのが望ましいと思っています。
以降では、為替リンク制度のメリット・デメリットを見ていきます。
為替リンク制度のメリット
為替リンクのメリットは、以下のとおりです。
・商社の為替マージンを吐き出させられる
・為替交渉という不毛な議論から開放される
・円高になった時、確実にコストメリットを得られる
・為替マリー効果を得られる
商社の為替マージンを吐き出させられる
そもそも輸入品には、為替差益・差損がつきものです。
取引先は、多少円安に動いても利益が出るようにバッファをみて円貨を決めています。
例えば、1ドル=100円の時、1ドルの部材を販売する時100円で販売したらすぐに損してしまいますよね。
取引先は、多少円安に動く前提で我々客先には「110円とか120円」で見積書を出してきます。
ですが為替リンク制度にすれば、取引先はこうした為替バッファを持つ必要が無くなります。
そのため、商社が持っていた為替マージン分をこちらで回収=値下げができます。
為替交渉という不毛な議論から開放される
円安になると、取引先からは値上げ要請がきます。
そして円高になると我々バイヤーは、取引先の為替差益を回収しなければなりません。
つまり円高になっても、円安になっても交渉が必要となってきます。
ですが、為替交渉は取引先のブラックボックスなので、不毛な交渉になりやすいです。
当時の為替にバッファをみて110円の基準が妥当ですよね?
いえ、そこまでバッファは見ていません。更に実は現地メーカーの値上げを弊社が吸収しており、その分弊社は苦しいんです。
こんな感じで水掛け論になりやすいです。
でも為替リンクにすれば、こうした不毛な議論から開放されます。
限られたリソースを有効に活用するためにも、こうした不毛な議論を無くせるメリットは大きいです。
円高になった時、素早くコストメリットを得られる
為替リンク制度にすると、円高になった時も自動で為替差益を享受できます。
これは、かなり助かります。
円高になると、会社の経営層からは「輸入品の為替差益を回収しろ!」という号令が出ます。
そして僕たちバイヤーは、各取引先と個別に為替差益回収交渉をしなければなりません。
ですが先程説明したように、為替の交渉は不毛な議論になりやすいです。
それを各取引先と行うだけでも、相当な工数を取られます。
また取引先は円高になっても、こちらが言わない限り為替差益は返してくれません。
「円安の時は言うけど、円高の時は黙っている」
これが取引先です。
我々もいちいち各取引先の設定レートなんか覚えていられません。
そうすると、円高の時だけ取引先が得をする構図になってしまいます。
為替リンクには、こうしたアンフェアを解消して、円高差益を確実に回収できるメリットがあります。
為替マリー効果を得られる
為替リンク制度にすると、円高の時は安く仕入れられて、円安の時は高く仕入れる事になります。
そしてあなたの企業が輸出企業の場合、これとは逆の事が起きます。
輸出企業は「円安のほうがお得」です。
一方で調達品は、円安の時は損をします。
このように輸出企業の場合は、完成品の輸出と部材の輸入の為替変動を相殺することができます。
これを為替マリー効果と呼びます。
製造業はできるだけ為替リスクを下げる事が望ましいです。
そういう意味で、調達品を為替リンク制度にすると為替マリー効果が得られ、為替リスクを下げるメリットが得られます。
為替リンクのデメリット
一方で為替リンク制度にもデメリットがあります。
・為替リスクを買い手が負う
・定期価格改定処理が煩雑(事務処理が増える)
・現状円で買っている部材の基準外貨価格をいくらにするかを決めるのが非常に大変
為替リスクをこちらが負う
為替リンク制度にすると、為替リスクは買い手が負う事になります。
そのため為替が円安に振れたら、その分満額値上がりとなります。
あなたの会社が価格変動を避けたい事業構造の場合、為替リスクを負うのは望ましくありません。
ここは自社の事情などを踏まえて、為替リンクにすべきかどうかを考える必要があります。
単価改定処理が煩雑(事務処理が増える)
為替リンク制度にすると、四半期もしくは半年置きに価格改定が必要となります。
(取引先との取り決めによる)
そのため定期的に単価改定処理が発生します。
ですが品目数が多い場合、単価改定処理は非常に大変になるケースがあります。
特に手作業で価格改定処理が必要な場合、その労力は甚大です。
下手すると、一日中単価改定処理に追われる可能性もあります。
個人的には、費用対効果で為替リンクにするか決めるべきと考えます。
少額&品目数が多いものは、円貨で決めるほうが楽ちんです。
僕たち資材部員のリソースは有限です。
限られたリソースを重要な事に割り振るためにも、事務処理との費用対効果は考えましょう。
基準外貨価格を決めるのが非常に大変
現在100円で買っている部材を為替リンク化する場合は、ドルの価格がいくらなのかを取引先と決める必要があります。
実は、この作業がひじょーーに大変なんです。
バイヤーは、全ての品目の採用時点の為替を調べて、当時のドル価格を算出しなければなりません。
その基準をベースに取引先と交渉する必要があります。
ですが、これまで説明してきたように、当時のドル価格を決めるのは水掛け論になりやすいです。
お互いが納得できる水準に持っていくのが難しいのが現実です。
適正なドル価格を決められないから、為替リンクを諦めてしまうケースもあります。
基準の外貨単価の決め方
円貨で買っている部材を外貨リンクにする具体的なステップをまとめました。
(値上げ査定とほぼ一緒の流れです)
・部材を採用した当時の為替レートを調べる
・購入部材の為替レートをベースにドル価格を算出する
・理論ドル価格をぶつけて価格交渉を行う
何度も説明していますが、こちらの理論価格で妥結する可能性は、ほぼゼロです。
相手は以下のロジックで、基準ドル価格の引き上げを図ってきます。
こうした議論をしながら、お互いが納得できる水準で妥結する事になります。
基本的には、こちらの査定通りに妥結できる事はほとんどありません。
「ある程度納得できる水準であれば、妥結する」
というのが、僕がこれまでドル価へ変更する交渉をしてきた実感です。
輸入品を採用する時は最初から外貨建て価格で決めよう
個人的には、輸出を一定額やっている企業であれば、輸入品は全部為替リンクで良いと思っています。
そして途中で為替リンクにするのは大変なので、最初から外貨建てで値決めするのが望ましいと思っています。
量産途中から外貨建てにするから、色々ややこしい事が起こります。
最初から外貨建てで見積もりを取れば、フェアになります。
また為替リンクの考え方は、為替以外にも応用ができます。
例えば「銅や樹脂」など、市況で価格が決まる部材を買っている場合は、その変動ルールを決めておく事ができます。
最近は、銅や樹脂を要因とした値上げも非常に増えています。
こうした値上げの対応でも、一定の市況にリンクさせておけば、価格交渉で揉める事が無くなります。
まとめ:円安による値上げ要請への対処方法
本記事のまとめです。
・為替値上げは、基本的には受けるしかない
・円高に振れた時に値戻しできる「為替リンク」を導入するのがおすすめ
現在の部材調達は、日本だけで完結することはあり得ません。
そして輸入品を買うケースでは、必ず為替の問題が発生します。
為替の交渉術を学んでおくと、交渉を有利にかつスピーディに進める事が可能になります。
この記事が皆さんの参考になれば幸いです。
他にも色々と調達系のブログを書いていますので、まとめ記事から気になる記事を読んでみて下さい。
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