こんにちは、コロスケ( Corosuke blog)です。
この記事では、アメリカ大手半導体メーカーである「TI:テキサスインスツルメンツ」の強さの秘密を解説していきます。
TIは、1930年に創業した老舗の半導体メーカーです。
2021年度の世界の売上ランキングでは、9位にランクインしております。
日本市場にも古くから参入しており、TIから半導体を購入しているバイヤーも多いと思います。
ですがTIって一体どんな会社なのかご存知でしょうか?
そこで本記事では、テキサスインスツルメンツの経営状況と強さの秘密を詳しく解説していきます。
TI部品を購入しているバイヤーの方や、TIへの投資を検討している方に役立つ情報を提供します。
テキサスインスツルメンツの将来性・強みを解説|利益率40%の秘密
TIの会社概要をまとめました。
2021年度売上:18,344百万ドル(2.4兆円)※135円/ドル
2021年度営業利益:8,960百万ドル(利益率49%)
1930年にアメリカで創業した総合半導体メーカー
約31,000人の従業員
21年度の利益率は「49%」と、超高利益体質の会社です。
日本人の僕たちから見ると、バグかと思うレベルの高利益です。
次にTIの経営状況をざっくり見ていきます。
売上・営業利益
売上は、2013年度に12,205百万ドルでしたが、2021年度には18,344百万ドルと、1.5倍に成長しています。
営業利益は、2013年度2,832百万ドル→2021年度8,960百万ドルと、3.1倍に急騰しています。
特に2021年度は、世界的な半導体不足を背景に売上・利益を大きく伸ばしています。
EPS・配当・配当性向
EPSは1株当たりの純利益です。
こちらも、きれいな右肩上がりのグラフです。
僕は株式投資もしていますが、この右肩上がりの数字を見ると投資したくなります笑。
バランスシート(貸借対照表)
自己資本比率54%、総資産に占める有利子負債比率は30%前後です。
最近は設備投資に積極的で、有利子負債が徐々に増加していることが分かります(後述します)。
日本企業とどうしてこんなに差がついたのか?
半導体企業は移り変わりが激しい世界です。
多くの老舗半導体メーカーは、買収されたり衰退しております。
有名な話ですが、1980年代は世界の売上トップ10に日本企業がずらりと並んでいました。
しかし、残念ながら現在はトップ10に日本企業は存在しません。
ですがTIは、ずっと世界のトップ企業の地位を維持し続けています。
衰退してしまった日本企業と、TIは何が違うのでしょうか?
以降では、利益率40%の秘密に迫っていきます。
テキサスインスツルメンツの将来性・強みを解説【選択と集中】
TIの利益率が40%を超える理由は、以下のとおりです。
・「事業の選択と集中」を行い、自社の力が一番生きる分野へ注力したから
とてもシンプルですが、選択と集中こそがTIの力の源泉です。
詳しく解説します。
FABの強みが生きるアナログへ注力した
TIは、FAB(工場)を持つ半導体メーカーです。
昔は半導体メーカーはFABを持つのが一般的でしたが、現在では設計と製造を分ける水平分業型が主流となっています。
そもそも半導体設備は、設備産業であり、莫大な設備投資費用がかかります。
更にムーアの法則に従い、プロセスは毎年微細化=進化を続けます。
市場の先端プロセスに追随するためには、毎年巨額な投資が必要となります。
投資費用が巨額になるにつれ、自社だけで設備投資を行うのは困難になりました。
その結果TSMCのように、複数の企業から注文をもらい半導体製造に特化する専門企業が誕生しました。
現在では、最先端プロセスを自社でやっているのはINTELとSamsungくらいです。
他の企業は全てTSMCへの委託となっています。
日本の半導体企業は、この流れに追随できず衰退していきました。
(詳しくはこちらの記事をご覧下さい:日本の半導体メーカーが没落した理由)
一方でTIは、設備投資競争に巻き込まれない「アナログ分野」へ注力しました。
アナログ半導体は、デジタルのように「ムーアの法則」が適用されません。
アナログの特性上、プロセスの微細化を行うと必要な機能性能が満たせなくなります。
ディジタル回路の性能向上に寄与するプロセスの微細化も,アナログ回路に対しては,むしろマイナスに働く場合が多いのです。
【出典】Design Wave Magazine 2001 July_プロセス微細化がマイナスに作用するアナログ
またアナログ半導体は、ゼロイチでは無いので、思ったとおりの特性を出すのが難しいです。
設備を持っていけば、どこでも作れるものではありません。
そのため、設計と製造のすり合わせが大切になります。
このように自社FABを持つTIの強みが一番生きる分野が、アナログ事業だったのです。
現在TIの売上の8割近くがアナログ事業です。
高性能なDSPとアナログICのシナジー
TIの売上の17%を占める「embedded processing」は、DSPやマイコンの製品が該当します。
DSPはdigital signal processorの略で、アナログとデジタルを高速で繋ぐ役割を果たします。
アナログ情報を処理するためには、デジタルに置き換える機能が必ず必要となります。
つまり、アナログ半導体とDSPはセットとなります。
TIはこうしたアナログフロントエンドの機能をセットで販売できる所に強みがあります。
ネットワーク時代の可能性を広げるリアルタイム信号処理には高性能なDSPとアナログICが必要となります。(中略)
TI の DSP と互換性を持つTIの高性能アナログ製品は、お客様の製品差別化の重要な要素となっています。
【出典】TI_DSPとアナログ
回路設計者はゼロから設計しなくても、TIのラインナップから選ぶことで、求める機能を作り出すことができます。
このように技術力を全面に押し出すことで、価格競争に巻き込まれず高い利益を出す事ができるのです。
利益率の高い産機・自動車に注力する戦略
TIは、1つの製品、顧客、市場に依存しない事業構造となっております。
そのため、バランスの取れた経営ができる仕組みとなっています。
一方で近年は、その中でも「産業機器・自動車事業に注力する方針」を打ち出しています。
最も成長機会があると思われる産業用および自動車用製品の設計と販売に、さらなる戦略的重点を置いています。
【出典】TI_FORM 10-K ※著者訳
実際、TIの分野別の売上高比率も年々変わってきております。
・産業機器が31%→41%へ(10%アップ)
・自動車が13%→21%へ(8%アップ)
・民生が29%→24%へ(5%ダウン)
・通信が17%→6%へ(11%ダウン)
たった7年で分野が大きく変わってきております。
自動車は、自動運転などADAS需要が高まっております。
また産業機器も、FA化の流れで需要が増加しております。
一方で民生や通信は需要は伸びておりますが、価格競争が激しい分野です。
TIは高利益体質を維持するために、付加価値の高い「自動車・産業機器」へリソースを集中しているのです。
300mmウエハーの工場が競争力の源泉
TIは近年競争力を高めるために、300mmウエハーの工場を増やしています。
半導体は、ウエハーサイズが大きい方が1回の製造で沢山のチップを生産することができます。
ウエハーサイズを大きくすることで、安く大量に生産することが可能になります。
TIの説明では、200mmウエハーから300mmウエハーにすることで、製造コストを4割安くする事が可能となります。
300mmウエハーのチップは、200mmウエハーのチップに比べ、約40%のコストダウンが可能です。
【出典】TI_FORM 10-K ※著者訳
最近ではテキサス州シャーマンに300億ドル(約4兆円)をかけて、300mmの新工場への投資を行うことを決定するなど、積極的な設備投資を進めております。
こうした300mmウエハーラインは、TIの競争力の源泉です。
価格競争力がある半導体を作ることで、競合との価格競争に打ち勝つ事ができます。
高い利益→設備投資→更なる利益の好循環
TIは、自社の設備・技術力が生きるアナログ分野へ注力しました。
そしてそこで得た利益を設備投資に回すことで、さらなる競争力を得ています。
・高い技術力で高付加価値の半導体を生み出す
・高い利益が得られる
・得た利益を設備投資に回す
・従来より安くモノを作れるようになるので、更に競争力が増す
・更に市場シェアが高まる(以下ループ)
半導体は設備産業です。
一度設備投資競争に差がつくと、後から取り返すのが困難になります。
TIはまさに勝ちパターンに入っています。
40%超えの利益を設備投資に回し、それがさらなる競争力の源泉となっています。
実際TIは大規模な設備投資をしていますが、フリーキャッシュフローは常にプラスです。
半導体には、シリコンサイクルと呼ばれる景気の波が存在します。
そのため設備投資をした後に需要が減少し、苦しい経営を迫れれるケースが多いです。
ですが、TIは大規模な設備投資を続けても、借金比率はそこまで高まっていません。
比較的健全な経営状態を維持できており、今後の半導体需要の下落があっても耐えられるポートフォリオになっていると思われます。
まとめ:テキサスインスツルメンツの将来性・強み
TIの利益率が40%を超える理由をまとめます。
・自社の強みが生きるアナログ分野にリソースを集中した
・付加価値で勝負できる「自動車・産機」向けに注力
・高利益を設備投資に回し、更に利益を生む構造としている
やっぱり製造業で40%超えの利益は凄まじいですね。
もし日本の半導体企業が、1980年代に選択と集中ができていれば「TIのようになれていたかも・・・」と思ってしまいます。
今からこの遅れを取り戻すことは不可能ですが、それでも色々と学ぶところは多いと思います。
この記事が参考になれば、嬉しいです。
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