この記事は以下の方向けに書いています。
・巻線業界について詳しく知りたい!
・最近巻線の入手性が悪くなっているけど、どうして?
巻線(マグネットワイヤー)とは何か?を知りたい方は以下の記事をご覧下さい。
こんにちは、コロスケです。
今日は、巻線業界についてまとめていきます。
最近巻線が生産中止になったり、納期が長期化しているよ・・・
巻線の調達担当者や設計者は、巻線の生産中止や納期の長期化に苦労している人も多いと思います。
これは、需要>供給の状態となっていることが原因なのですが、実はこの状況はここ数年で起きている新しい状況なんです。
では日本の巻線業界はどうしてこのような需要過多の状況になってしまったのでしょうか。
そして今後はどんな方向に業界は進んでいくのでしょうか。
今回は、資材歴10年の現役資材部員の僕が、巻線業界の歴史や今後の調達環境について詳しく解説していきます。
巻線(マグネットワイヤー)業界の歴史【生産量推移と業界再編】
まずは、巻線がどういったものかを確認しながら、巻線業界の歴史を振り返っていきましょう。
実は巻線は付加価値が低く儲かりにくい業界だった
巻線はモーターには必ず使われるキー材料です。
これが無いと自動ドアも開きませんし、ドライヤーも使えません。僕たちの便利な生活を支えるとても大事な材料です。
一方で巻線は、伸線して焼き付けするというシンプルな製造工程であるため、付加価値が付けづらく、儲かりにくい業界でした。
(価格に占める材料(銅やアルミ)の比率が高い)
また巻線業界は典型的な装置産業です。
もちろんモノ作りの中には様々なノウハウがありますが、基本的には設備償却のために、装置を稼働させ続ける必要があります。
その結果、巻線業界は厳しい価格競争に晒されることになりました。
巻線の生産量推移(1995年~2004年):海外移転の時期 【需要減】
加えてバブル以降の巻線業界は、製造メーカーの海外移転という逆風もありました。
1990年代以降、日本の製造業はこぞってアジアを中心とした海外へ生産移転を進めてきました。
巻線は装置産業であり、基本は設備があれば作ることが出来ます。
加えて、巻線は銅やアルミの重量物です。日本で製造してアジアへ送るのは非効率的でした。
その結果、巻線自体の生産も海外への移転が進み、日本国内での巻線の需要は大幅に減少しました。
その結果、日本での巻線生産量も急速に減少しました。
以下は経済産業省の資料のデータです。
1995年に22~23万トン/年の生産量だった巻線が、2004年には15万トンと大幅に生産量が落ち込んでいます。
結構激しい現象ですよね。
もちろん日本の巻線メーカーも海外へ移転することで生き残りを図りましたが、日本国内での巻線需要の減少は避けられませんでした。
巻線メーカーの再編
国内の需要(生産量)が減少した巻線業界はどうなったの?
国内の需要の急激な減少、巻線自体に付加価値がつけにくい、この結果引き起こされた過当競争によって、単独では採算を維持出来なくなり合併などの再編が進むことになりました。
以下でホームページに載っている範囲内でのメーカー再編について記載致します。
2001年:昭和電線とフジクラの巻線事業が一緒になりユニマック設立
2002年:住友マグネットワイヤーと第一電工が合併し、住友電工ウインテックが設立
2010年:古河電工、理研電線、東京特殊電線の巻線部門が統合し、古河マグネットワイヤが設立
すごいね、合併しまくりだね・・・
このように2000年代は、多くの巻線メーカーが合併を推し進めることで、生き残りを図りました。
車載向け巻線の需要の増加
2000年代の巻線メーカーは、激しい価格競争と客先である製造業の海外移転により、需要が激減しました。
巻線メーカー各社はその需要減に合わせて、供給量も減らしていきました。
こちらが2006年以降の生産量推移です。
このグラフをみて分かるように、巻線メーカーの生産量は13~14万トン/年で横ばいです。
一方ここ数年は車載向け巻線の需要が急増しております。
一番大きい要因が、EV(電気自動車)化です。
電気自動車はモーターで駆動するため、モーターに使われる巻線の使用量も急増しております。
生産量は横ばい、需要は急増の結果、今起きているのは「需要過多」の市場です。
巻線を買いたい!と思っている人が、なかなか巻線を買えない、もしくは入手性が悪化する事態となっております。
1990年代の供給過多の買い手有利の状況を知っている人が、今の状況を聞くとびっくりすると思います。そのくらい大きく状況が変わってきています。
でも需要が増えているなら、メーカーが作れば良いんじゃない?
メーカーが生産量を増やさない理由は以下の通りです。
・付加価値の低い巻線はあまり作りたくない
・また海外に移転しまうことを恐れている
・そもそも設備を廃却したり、生産量を減らしており対応が出来ない
巻線メーカーは1990年代の苦しい時代をもちろん知っているので、付加価値が低い汎用線に今更力を入れようとは考えていません。
特に大手メーカーでは、UEWやPEWなどの耐熱の低い汎用的な巻線の生産中止を発表しております。
つまりメーカーは最近の需要増に対しては、付加価値の低い巻線の生産を止めて、車載向けに力を入れているのです。
巻線メーカーは昔の過当競争の反省を踏まえて、今の需要増でも生産量を増やす選択をしないんだね
巻線(マグネットワイヤー)の今後の調達環境を解説【調達難の時代】
上記でご説明したように、巻線の調達環境は今までとは異なり、売り手が優位な市場状況です。
巻線を調達する製造メーカーは今後どのような対策を取れば良いのでしょうか。
今後のメーカーの方向性
まずは日本の巻線メーカーの方針を確認していきましょう。
日本の大手巻線メーカー各社は、EVという100年に一度の大きな波を逃さないように車載事業に注力していくことが予想されます。
このことは昭和電線がユニマックを完全子会社化したことからも明らかです。
車載向けでは付加価値の高い巻線の需要が高まります。
付加価値が高い巻線とは、「高耐熱・平角線」です。
巻線メーカー各社は今までの汎用巻線(耐熱温度が低い丸線)の生産を止めて、その生産能力を車載用の高耐熱平角線に振り向けており、今後はその動きが更に加速する見込みです。
車載向けの巻線は、高耐熱の平角線が主流なんだね
汎用巻線は値上げ・生産中止・長納期化
最近、巻線が値上げになったよ・・・
という経験をされた方は多いと思います。
今後も汎用の巻線は、生産中止、値上げ、長納期化の三重苦に見舞われることになります。
巻線の調達担当者にとっては厳しい時代となっており、今後もその動きは加速することが見込まれています。
巻線を購入している製造業は、気が付いたら生産中止になっていた・・・とならないように、今から対策を講じていく必要があります。
今後の巻線の調達はどうすれば良いのかな?
巻線(マグネットワイヤー)の調達担当が行うべき対策は?
今後巻線を購入している人たちが行うべき対策は以下の通りです。
・適正在庫量を増やして、長納期に備える
・大手メーカーでは無く、中小メーカーから購入する
・海外メーカーから巻線を輸入する
適正在庫量を増やして、長納期に備える
今までみたいに納期で融通が利かなくなる恐れがあることから、在庫を多めに保有していくことが対策として求められます。
但し、巻線は金額が高いため棚残とのバランスも重要になってきます。
大手メーカーでは無く、中小メーカーから購入する
先ほどご説明したように、大手メーカーは100年に一度の車載ビジネスの需要を取り込もうと躍起になっています。
一方で耐熱線や平角線といった車載向けビジネスに注力していないメーカーもあります。
そういった汎用線中心にビジネスを継続している中小の巻線メーカーへ切り替えることも一つの対策として有効です。
ただ、各社同じことを考えており、近年は中小企業への注文が増えてきております。
中小メーカーの生産量には限りがあるので、「もうこれ以上受注できない」と注文を断られるケースも出てきている模様です。
中小メーカーと連携を取って供給枠を確保していく動きが必要になってくるかもしれません。
海外メーカーから巻線を輸入する
最後の対策は海外メーカーから巻線を輸入することです。
一般的に巻線という重量物で付加価値が低い線は、輸入すると逆に値段が高くなってしまいます。
そのため、巻線事業は地産地消が一般的です。
しかし、昨今の需要増により、海外メーカーから輸入することも選択肢に入ってきました。
価格のメリットは無いけれど、供給を確保する観点から海外メーカーを採用しているケースも増えてきているようです。
大手メーカーも海外の生産拠点を持っているので、そこからの輸入も選択肢に今後入ってくるのかもしれません。
まとめ
巻線は100年に一度の自動車の変革の波にさらされています。
20年前のように入手が簡単で価格が安定している調達の優等生では無くなってきています。
今後の巻線の調達は、今まで以上に難しくなることが予想されます。
ぼうっとしていると取り残されてしまう可能性がありますので、今まで以上に業界の動向にアンテナを張っていく必要があります。
この100年に一度のEVの波を乗り越えられるように、一緒に頑張っていきましょう!
また、巻線の素材である銅やアルミの価格の決まり方が知りたい人は以下の記事も参考にしてみて下さい。
このブログ( Corosuke blog)では、僕が働く「資材・購買業務の紹介」や「日々の生産性向上による生活の質UP」「投資を通じた自己実現」などをまとめています。
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